一焼、二土、三細工

高校時代、仲の良かった友人の影響でジャズを聴くようになった。
その頃、レコードなどそうそう買えるものではないから情報源はFMラジオだ。
当時のFM放送は関東では2局しかなかった。NHK-FMとFM東京。
FM-東京は今、Tokyo-FMに名前が変わっているが未だにFM東京と言ってしまう。
NHK-FMは水戸放送局があったので電波状況は良かったが、問題は聞きたかったFM東京のほう。
電波が弱い。

ということで自然とNHK-FMばかり聞くようになった。
そこで覚えた言葉が「ブラインドフォールド・テスト(Blindfold Test)」だ。
日本語に直せば「目隠しテスト」と言う。ジャズの演奏を何の情報も与えずに聞かせて、その演奏者などを推量させる遊びである。
ジャズメンは個性の塊のようなものだから、同じ楽器でも全員出す音が違う。
録音状況から年代を推測することもできるらしい。
プレーヤーによってはどうしても繰り返し出てしまう癖のような音もあるという。
ブラインドフォールド・テストは構成メンバーの演奏を聴きながらその正体を突き止めていく。曲目や参加楽器、メンバーやリーダー名、演奏地などを推測していく知的な遊びだ。
当然、私にはそんな深い知識はないし仲間もいなかったのでできなかった。

さて、やきものの話し。
やきものを言い表した言葉に「一焼、二土、三細工」がある。

やきものを言い表した言葉に「一焼、二土、三細工」


これをジャズでいうブラインドフォールド・テストに当てはめてみよう。
やきもの作品の「焼(やき)」をみて酸化焼成なのか還元なのか、しっかり焼けているのかそうでないのかといったことが分かる。
土を見れば、磁器土か陶土か炻器でおおよその産地が見当つく。
細工を見れば、同じように産地や作者が分かることもある。
そういえば、お宝を鑑定するテレビの長寿番組があるが、登場人物のN氏は、焼きがいいとか、いい景色だとか、土がどうとか、いい仕事しえますねえ(細工)などと表現して、まさに「一焼、二土、三細工」に則った見方をして鑑定をしているのが特徴的だ。

私の父は作陶家だった。
たたき上げでやきものを習い、職人、製陶所経営、個人窯元からガス窯作りへと展開していった。
そんな親父はやきものを手に取ると逆さにして必ず「高台(こうだい)」を見た。
高台には釉が掛かっていないから、土が分かる。釉の施してあるやきものでは土を知るためには高台を見るしかない。ここで土を確認していた。
それともう一つ親父には推測したいことがあった。
それは作者の性格。

例えば湯飲みの高台の仕上げ方を見て、勢いがある、丁寧だ、時にはろくろの回転方向が違うな、などと自分なりに分析して楽しんでいた。

湯飲みの高台の仕上げ方


人間がつくったものには必ず性格が出る。思いを込めることができる。
作品に作者の性格が出て、個性が表現されただけよりは、さらに思いが込められて、このやきものをこんなふうに使ってほしい、とか、こんなふうに楽しんでほしい、というようになると更に良いものができるのではないだろうか。
「一焼、二土、三細工」というこの三つの部分に、どういう方法、種類、技術を使って思いが込められるか、それが重要な気がする。

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