ガス窯で青織部釉が黒く発色する原因について

東京藝術大学が取手市にあることも影響しているのか、茨城県の県南地方は陶芸が盛んな地域でもある。
みなさん自治体や公民館で陶芸活動をしている。
しかも本格的なガス窯を使ってやきものを楽しんでいる人たちが多い。
特徴的なのは皆さん研究熱心であること。
この地域にガス窯をおさめると本格的な質問や新たな気づきがあるので、びっくりすることがある。
だからガス窯の焚きかたを詳しく説明してほしいという依頼がある。
私は代表者のかた数人に説明するつもりで訪問すると、陶芸クラブのほぼ全員が出席し、教室ほどの部屋がいっぱいになってしまったことがあった。
しかも皆さん真剣で、本格的な質問がバンバン飛んでくる。

そのような中で、さっそく難問が。
0.3 ㎥の台車式ガス窯「酸化焼成で青織部釉を焼いたところ、全体として緑色に発色したのだが、最下段だけが黒くなってしまった」という質問である。
これはどういうことか?と代表者 N さんからの連絡。

調べた結果、織部釉が黒く焼き上がる場合として、以下の 3 点が考えられることが分かった。

1, 織部をゆっくりと冷ましますと、表面に銅分の黒い結晶が浮かび上がってきて、黒ずんだ色になりが
ち。
2, 青織部の色合いを濃くするために銅分を加えると、銅分が釉薬に融け込む量に限界があるため濃い色合いではなく、結晶が噴き出してきて、どす黒くなる。
3, 青織部釉を施して一度高い温度で焼いたものに上絵付をして、もう一度 800℃くらいで焼きつけると、いままで美しい色合いをしていた青織部釉が灰黒色に変わることがある。これは一度、高い温度で融け込んだ銅分が再び焼かれることによって、釉中より揮発や分離して釉面に銅分が析出(偏析)するためである。釉薬に融け込んだ銅分は、600℃前後において揮発、偏析する。

上記のことから、原因は 1 の青織部釉は焼成後冷却時にゆっくり冷めると銅分の黒い結晶が浮かび上がってきて黒ずんだ色になる、ということのようです。
2,は既成の釉薬を使用しているので考えにくい。
3, は今回は本焼きであることから条件にない。

では、なぜ1なのか。
ガス窯の冷却過程で炉のどこが一番ゆっくり冷めるかと考えると、炉床面に近い場所、つまり棚板の最下段ではないだろうか。
焼きあがってから、ダンパーやバーナー口を閉じて、窯に冷気が入らないようにすることが多い。
炉内を構成するレンガは2種類しかない。耐火レンガと耐火断熱レンガである。
耐火レンガは、炉床面に使われており、耐火断熱レンガは炉壁や天井、扉などに使われていて主たるレンガといえる。
この二つのレンガの一番の違いは密度である。レンガでは「かさ比重(※1)」で表されている。
耐火レンガ(※2)のかさ比重は 2.0、耐火断熱レンガ(※3)では 0.70。
この違いはどう出るかというと、冷え方の違いになる。
かさ比重が高いということは、それだけたくさんの熱を蓄えられるということなので、冷めにくい。
これに対して、耐火断熱レンガは気泡があり、かさ比重が小さいので冷めやすい。
耐火レンガは前述のように、炉床面に使っているから棚板最下段が熱の影響を受けやすいことになる。
ガス窯にはバーナーがあり炎が立ち上るスペースがある。この部分は空隙であるから蓄熱はしない。
したがって、棚板の最下段以外は最下段に比べて冷めやすい、ということが考えられる。

テストピースの状況と結論

写真の「炉下段置き TP(テストピース)」を観察すると、全体としては黒色であるが、周辺部分が緑色に残っている。
物質が冷えていくのは周辺からなので、TP 周辺部分が緑色になっているのは早く冷めている証拠ともいえる。
これらのことから、今回の青織部釉が黒色になった原因は、昇温時は酸化雰囲気になっており窯の中で一旦は緑色に発色したのだが、ゆっくり冷めたことで釉中の銅分が浮き上がってきて黒くなってしまった、ということのようある。
窯焚きは「あぶり、せめ、冷まし」という3つの過程がある。
青織部は酸化焼成という比較的容易な焼き方ではあるが、酸化焼成というのは「せめ」の部分だけをいうものである。青織部釉は「冷まし」の重要性を考えさせられる釉薬であることがわかる。

ガス窯で青織部釉が黒く発色する原因について

(参考文献)
陶芸の釉薬、陶芸の土と窯焼き 大西政太郎著、陶芸の彩色技法 小島英一著、陶芸のための科学 素木洋一著、入門 やきものの科学
田賀井秀夫著
※1:同密度の4℃、1気圧の水の密度との比 ※2:いわきシャモット(株)製 SK34、※3:イソライト工業(株)LBK28

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